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電車にて



ちょっと遠方のお得意さんに会うために電車を利用した。
電車に乗るのは随分と久しぶりだ。
帰りの電車で向かい合う席の通路側に座る。
窓際に若いカップルが座っていた。
少々混んでいる。ベルが鳴って電車が動き出す。
と同時に、僕は鞄から文庫本を出して読み始める。

ゆっくりと本を読みたかったので各駅停車にした。
今日の予定はこれで終り、直帰にしている。
駅に止まるにつれて乗客が増え席が埋まっていった。
そして、僕の向かいの席に小柄なおばぁさんが座った。
息子さんか娘さんなのか、その夫婦と一緒に乗ってきた。
でも席はひとつ、夫婦は別の離れた空いている席へ行く。

おばぁさんはそれが気に入らないのか、
そわそわしながら周囲を見渡している。落ち着かない様子。
たぶん僕の母と同じくらいの歳かな、
お年寄りを見るとどうしても母と比べてしまう。
その見渡す仕草、素振りが少し滑稽だった、ことに気付く。
言っては失礼だが、鳥の首の振り方に似ている。
メリハリのある小刻みな動き、そして、まばたきが多い。

次は少し大きめの駅なのか、
降りる準備をする人達が目立ってくる。
それに合わせて、おばぁさんの首振りが活発になってきた。
隣の窓際の若いカップルも降りそうな気配だ。
おばぁさんの視線はそのカップルに釘付けとなる。
いや、また一段と小刻みに動いている。
カップルの手元、足元、顔、交互に視線を送る。
時折、僕を見る。 僕は降りないよ。

駅に着く手前でカップルが席を立つ。
僕とおばぁさんの膝を抜けて通っていく。
おばぁさんの視線はカップルを見送って、
その先にいる夫婦を大袈裟な手招きで呼ぶ。
あたりを大袈裟に警戒しながら。

夫婦は40半ばから50くらい。
向かい合った席と隣の席は三人家族と他人の僕で埋まった。
夫婦のどちらが実の息子さんか娘さんなのか、
探ってみようと会話に聞き耳をたてたけどわからない。
おばぁさんが座って、そう20分くらい経ったけど、
めくったのはせいぜい3ページくらい。
夫婦の会話が続く。もう気にしないで読書に専念しよう。
しかし、おばぁさんの首振りが視界に入って来る。
その視ターゲットは、窓際の夫婦と、なぜか僕…。

おばぁさんの顔は微笑みになっている。
家族と一緒にいることができて幸せそうだ。
夫婦の会話を楽しそうに聞いている。頷きながら。
でも、おばぁさんの話題ではない、親戚のご不幸の話らしい。
でも、嬉しそうに聞いて頷いている。
そして、相づちを求めるように僕を見る。微笑みはそのままに。

どう?うちらの家族、楽しい会話でしょ、あなたも輪の中へどう?

一瞬目が合った。
おばぁさんは、つぶらな瞳をしていた。
毛糸の帽子(たぶん自分で編んだものだろう、そうに違いない)
を深くかぶり、両手を重ね、足を揃え、こじんまりと佇んでいる。
一瞬目があった僕は、一瞬のうちに目をそむけた。
二度とこんなあやまちをしていけない、と思った。

おばぁさんはそのつぶらな瞳を、相変わらず頻繁に、
あっちへ向けたり、こっちへ向けたり巡回している。秩序的に。
気のせいか、僕への視線が前より永く滞在してるように感じる。
あのあやまちのせいなのか?相づちにとられたのか?
いいかげん気にするな、本を読め。と自分に言いきかせる。

学生の頃を思い出した。
授業中の先生が僕だけを見て教えている。遠いのに。
熱心に注がれる視線。無下にできない。
受けて応えるしかない。選ばれてしまったのだ。
先生は授業の成果を僕の仄かなうなずきで確信している。
でも、そろそろ休ませてほしい。免れたい。
おばぁさん、僕はあなたの家族じゃない。
相づちを求めても無駄だから。あの頃の僕じゃない。

次第に、なぜか可笑しくなってきた。
鳥のような小刻みな首振りとまばたき、
つぶらな瞳、その微笑み。友好的関係の強制的構築?。
そういえば、おばぁさんの声ってまだ聞いてないな。
そんなことを考えていると笑いが込み上げてくる。
つぼに入ったら大変。ここで笑えば大惨事になりかねない。
そうだ、今朝買ったガムがまだポケットにあるはずだ。
噛んで笑いをごまかそう。

僕はガムを口の中へ入れる。
その一部始終をおばぁさんが見ている、のを脇目で感じる。
順調にガムを咬む。
うつむいたままの角度の首に疲れて、つい首を上げる。
そして、目が合ってしまう。



おかぁさん・・・それは・・それは、反則だよ。



彼女、僕につられて、口を動かせていたんです。



おわり。

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プロフィール

鐸(たく)

Author:鐸(たく)
中国地方在住。
50代男性。
自作の緊縛画、責め画を展示し、
その想いや色事を綴っています。
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不快と感じられる方の
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